取調べの録画・録音の危険性

2016-04-11

 栃木の女児殺害事件は裁判員裁判で審理され,その中で,被告人の取調べを録画・録音した映像(DVD)が長時間取調べられました。
 (本コラムは上記事件の当否を問題にするものではなく,一般的な取調べ録画録音の問題点についてお話しするものです)

 我が国の刑事手続では,長い間取調べが密室で行われてきました。過去には取調官である警察官や検察官が,脅したり,利益誘導をしたり,あるいは肉体的・精神的暴力を振るった結果,やってもいないことを認めた(自白させられた)事件が起こりました。そのようなえん罪事件の反省の中から,不当な取調べをなくそうと取調べの録画・録音の制度がスタートしたのです(まだ法整備はされておらず,捜査機関が任意にしているにすぎません)。

 取調べの録画・録音は,まさに取調べしている様子をそのまま撮影しています。従って,録画している中でそれまで行ってきたような不当な取調べを行うことはできません。そのため取調べの録画・録音制度は取調べの適正化に資する制度といえるでしょう。
しかし,取調べの録画・録音は同時に危険も孕んでいます。それは一部しか録画されなかった場合です。 
 たとえば,取調べ当初否認していた被疑者が,途中から認めた場合に,認めた後だけ録画してしまうと,後から検証する立場から見ると,本人が自発的に話しているように見えてしまいます。認めてしまっていますから,取調官も優しく取調べできます。
 もし,否認→自白に転じる場面で,不当な取調べが行われていても,それは闇の中です。
 このような場合には,むしろ取調べの録画・録音が不当な取調べを覆い隠す隠れ蓑になってしまうのです。
 
 現在捜査機関が行っている取調べの録画・録音は,全過程の録画が保障されていません。
このような制度ではえん罪をなくそうとしたもともとの趣旨に反するものと言えるでしょう。
 不当な取調べをなくすには
・ 取調べの全過程を録画すること(在宅や任意調べのときも)
  ・ 取調べ以外で捜査官と被疑者との接触を無くすこと
 が必要です。

 取調べの録画・録音の法整備は今国会で議論されていますが,様々な例外要件が設けられるなど不十分なものとなる可能性があります。
 どのような制度であれ,取調べの録画・録音の持つ危険性を意識しながら刑事弁護活動を行っていく必要があります。
 

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