人質司法という言葉

2019-04-05

 今,ニュースで報道される事件などから,一般の方々も「人質司法」という言葉を耳にするようになっています。
 「人質司法」とはどういう意味でしょうか。
 本来,刑事裁判を受ける際に身体拘束されていることは必然ではありません。無罪の推定を受けているのですから,身体拘束を受けたままで裁判を受けるという不利益を被告人が被る必要は全くないのです。裁判は何カ月,場合によっては何年とかかるものも多いのですから,裁判を受けるときに身体拘束をされていることそれ自体が大きな不利益になります。ですから,刑事訴訟法は,裁判に掛けられたときに保釈される(金銭を預託して釈放される)ことを権利として定めています。
 しかし,「権利として」といっても,様々な除外要件が定められています。その中で厄介なのが「被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき」という条件です。これは,文字どおり証拠隠滅などを示すのですが,証拠隠滅と言っても,関係者に対する働きかけであるとか,口裏合わせであるとかを幅広く含むものとされています。さらに,「相当な理由」という絞りが掛けられていますが,緩やかに解されているのではないかと思えてしまうような運用になっています。
 このとき,被告人が否認をしていると,この罪証隠滅の可能性が高まると解釈される場合があります。特に,検察官はこうした意見を述べてくることが非常に多いです。刑事裁判官も,同様に考えている人が多いと考えられます。そうすると,被告人はどういう心境になるか,お分かりいただけると思います。「認めたほうが外に出やすいなら,嘘でも認めたい」。そのくらい,拘束されている生活は厳しいものなのです。このように,外に出たいなら自白しなければならないと思えてしまうような司法制度が,「人質司法」といって問題視されるのです。
 そもそも,否認しているから罪証を隠滅するというのは,無罪推定の原則とそぐわないものです。有罪だから有罪の証拠を隠滅する,少なくとも有罪かもしれないから有罪の証拠を隠滅するということを意味すると考えるのが普通だからです。無実の人が無罪判決を得るために証拠を隠滅するという想定もなくはないですが,通常の言葉の使い方に反するでしょう。容疑を認めている人よりも,争っている人のほうが無実かもしれないのだから,より早く解放してあげようというのが,常識にそぐう考え方です。そうなっていない日本の司法は,人質司法と呼ばれても仕方がない状態になっていると思います。

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