犯罪の故意と錯誤

2020-03-24

刑法38条は,次のように定めています。
「1,罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
 2,重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
 3,法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。」

一つずつ解説します。
まず,第1項ですが,罪を犯す意思がないとは,罪を犯すつもりがない,という抽象的な意味ではなく,罪を犯す事実の認識がなければ罰されないという意味です。たとえば,海外から人に頼まれてスーツケースを持ち込んだら,税関で止められて覚醒剤が出てきた事例で,スーツケース内に覚せい剤が入っているなんて知らなかった,というような場合です。この場合は,覚醒剤密輸の故意がないのですから,覚醒剤密輸の罪は成立しません。また,過失による場合も処罰されない,という意味もこの条文は含んでいます。もっとも,自動車事故のように「法律に特別の規定がある」ことにより処罰される場合もあります。
つづいて第2項ですが,客観的には重い罪を犯してしまったけれども,認識はそうではなかったという局面です。たとえば,人を拳銃で撃ってしまった。しかし,人を撃つという認識はなく,等身大の人形を撃って壊すという認識だったという場合です。この場合,どんなに精巧にできていても等身大の人形は物ですから,器物損壊の限度でしか犯罪の故意がないことになります。その限度でしか,責任を負うことはありません。
最後に第3項ですが,たとえば,児童ポルノを所持していて個人的に楽しんでいたところ検挙された場合で,児童ポルノを個人的に持っていることは罪に当たるとは思っていなかったという場合です。児童ポルノ所持は近時になって刑事罰が科されるようになりましたが,そうした法律の改正を知らないということは,犯罪を否定する事情にはなりません。
もちろん,ここに書いたような例で,「こう思っていた」という被告人の主張が信用されるかどうかは,また別の問題です。

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