裁判員裁判は,一定の重大犯罪が対象となっています。
殺人,傷害致死,強盗殺人,強盗致死,強盗致傷,現住建造物等放火,強制性交等致傷などの罪です。
一般の市民から選ばれた裁判員が裁判官とともに有罪無罪の判断の他,有罪とする場合は言い渡す刑の重さも判断します。
裁判員裁判が行われる以前の刑事裁判では,有利な事情をできるだけ多くあげるという弁護活動が行われていました。
しかし,裁判員裁判が始まって,単に有利な事情をあげるだけでは不十分です。
裁判員裁判において,裁判官が裁判員とともにどのような量刑判断のプロセスで判断するのか十分理解した上で,適切な主張する必要があります。
また,一般の市民から選ばれた裁判員にも理解し納得してもらえるよう主張することが必要だといえます。
1.量刑傾向の把握
刑の重さを決める量刑判断のプロセスとして,まず類型的に捉えた上で量刑の傾向を把握するようしています。
刑法で定められている刑は一般に幅が広く定められています。
例えば,強盗致傷の罪について法律で定められている刑は,懲役6年以上から20年までの有期懲役,または無期懲役ととても広い幅が定められています。
このため,法律で定められている刑の重さだけから実際に行われた裁判の事件の刑の重さを具体的に決まることは困難です。
また,同じような犯罪行為が行われたのに対して,裁判によっては重くなったり軽くなったりするというのは不公平で,他の裁判との公平を考える必要があるといえます。
このため,行われた犯罪行為をある程度類型的に捉えた上で,その量刑の傾向を把握するようしています。
裁判所において,裁判員裁判の対象となる罪についてこれまで言い渡された刑のデータベース化がなされています。
罪名の他,犯行態様,被害内容などといった刑の重さに関わる事項を条件として,該当する事件の量刑分布を確認できるようになっています。
例えば,強盗致傷の罪であっても,その中には銀行強盗といった一般に計画性や被害金額が大きくなるようなものから,タクシー強盗,ひったくり強盗といったものもあります。
このように犯行態様などから類型的に捉えて,その条件でこれまで言い渡された量刑分布を確認して量刑の傾向を把握します。
例えば,タクシー強盗,ひったくり強盗といった犯行態様などの条件で量刑分布を確認すると,一定の範囲で山なりグラフになるのが通常です。
2.犯情からどこに位置づけられるか
次に,量刑傾向の中で,行われた犯罪行為がどこに位置づけられるものかを考えます。
行われた犯罪行為に相応しい刑事責任を明らかにすることが量刑の本質であると考えられています。
このため,行われた犯罪行為の客観的な重さと,犯罪行為を行ったことに対する非難の大きさから,量刑傾向の中で重い部類に位置づけられるものか,中くらいの部類か,軽い部類かといった位置付けを考えます。
量刑傾向における位置付けを考えるものであるため,どういった事情が刑を重くするする事情か,軽くする事情かを考えることが重要です。
例えば,相手を尾行して後ろから不意を突いてひったくり強盗を行ったという事案があったとします。
尾行して後ろから相手の不意を突くということ自体は,悪質ともいえます。
しかし,ひったくり強盗という犯行態様の量刑傾向においては,尾行して後ろから相手の不意を突くということは特別な犯行態様とはいえず,量刑傾向における位置付けを考えるにあたっては刑を重くする事情にはならないといえます。
また,執行猶予判決を求める場合,量刑傾向の中での位置付けとして執行猶予もあり得るような軽い部類に位置づけられるものといえなければ,その他の事情で有利な事情があったとしても執行猶予が付されないということになってしまいます。
行われた犯罪行為の責任がどういった重さのものであるか,量刑傾向の中でどこに位置づけられるものかについて,適切な主張を行うことが重要です。
3.その他の事情を考慮して具体的な刑を決める
このように量刑傾向の中で行われた犯罪行為がどこに位置づけられるものかを考えた上で,その位置づけられる範囲の中でその他の事情を考慮して,具体的な刑を決めることになります。
刑罰を科す目的としては,犯罪行為に対して制裁を与え,広く一般国民が犯罪に及ばないよう抑止し防止するということの他,今回犯罪を犯して裁判を受けることになった人が再度犯行を犯さないようにするという目的があると考えられます。
被害弁償などが行われて事後的に償いがなされていることや,本人が更生して再度犯罪を犯すおそれがないといえる事情などが,執行猶予が付されるかどうかや,軽い刑が言い渡されるかどうかを左右する事情になりえます。
犯罪行為の責任の重さを決める以外の事情についても,裁判において十分に明らかにして適切な主張を行う必要があるといえます。