人質司法の背景にある問題

 最近,ニュースやメディアでも「人質司法」という言葉が聞こえてくるようになりました。人質司法とは,一般的に,被疑者や被告人が疑われている事実を争っていると逮捕勾留をされ続け,身体拘束され続ける司法の運用を指して言われることが多いと思います。
 刑事訴訟法上,逮捕や勾留はもちろん刑罰ではなく,被疑者被告人の証拠隠滅や逃亡の防止のために行われるものとされています。裁判所が罪を争っている被疑者被告人の身体拘束を認めやすいのは,裁判所が,罪を争っている方が証拠隠滅や逃亡をしやすいと考えていることにほかなりません。
 他方で,無罪推定原則という概念があります。この無罪推定原則には学術上は様々な意味がありますが,ごく簡単に説明してしまえば,何人も刑事裁判の手続で有罪とされるまでは無罪と推定され,それにふさわしい取り扱いを受けることができなければならないという原則です。
 さて,被疑者被告人が罪を認めていれば,被告人が有罪であろうと考えることができますが,被疑者被告人が罪を争っている場合,当然,無罪推定原則に則った制度の運用が求められます。このとき,罪を争っているから証拠隠滅をするだろう,罪を争っているから逃亡するだろうというのは,被疑者被告人の無罪の主張を「実際は犯罪を犯しているが否認している」と理解するのでなければ説明がつきにくいと思います。むしろ,罪を争っているのだから被疑者被告人は無実かもしれず(むしろそう推定され),したがって早めに身体拘束を解放してあげなければいけないと考える方が,無罪推定の原則に合致します。
 人質司法と言われる問題の背景には,無実を訴える被疑者被告人に対する裁判所の誤った態度,無罪推定原則を軽視する態度があるのではないかと思います。

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