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否認事件と公判前整理手続

2021-05-17

否認事件とは

 起訴された犯罪について検察官の主張と弁護側で争いがある場合を否認事件といいます。
犯人でない,という無罪主張だけでなく,殺人未遂で起訴されて行為は間違いないものの殺意はなかったから傷害罪であると主張する場合もあります。
 また,事実の争いだけではなくて,正当防衛や責任能力の有無という法的評価が争いになることもあります。
 このような犯罪の全部又は一部の成立に争いがある場合を否認事件といいます。
 これに対し,起訴された犯罪が成立することに争いがなく,主たる裁判のテーマが被告人に科される量刑である場合を量刑事件や自白事件と言ったりします(なお,量刑事件といっても事実に全く争いがないというわけではありません。例えば殺人事件で起訴された場合に,検察官は保険金目的であると主張し弁護側が単なる怨恨であると主張するようなケースです。殺人事件においては動機がなんであるかは刑期を左右する大きな事情であり,事実の争いが大きな意味を持つことも少なくありません)。

公判前整理手続とは

 否認事件を公判で闘う場合には,公判前整理手続に付してもらうことが出発点として重要です。
 公判前整理手続とは,公判が始まる前にどのような点が争点となるか,どのような証拠調べをするかを整理するための手続です。
 重大事件を対象とする裁判員裁判対象事件では,必要的に公判前整理手続が行われることになりますが,裁判員裁判対象外の事件では,基本的に公判前整理手続に付すことを当事者から請求して,裁判所が決定することになります。

 刑事訴訟法 316条の2 1項
   裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第一回公判期日前に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を公判前整理手続に付することができる。

 
 公判前整理手続に付された場合とそうでない場合の違いは,大きく以下の3点です。

  ① 公判前整理手続で当事者双方は主張を明らかにする必要がある
  ② 原則として取調べて欲しい証拠は公判前整理手続で請求しなければならない
  ③ 検察官に対して証拠開示を求めることができ,証拠の一覧表も交付される

公判前整理手続に付すことの重要性

 上記の①,②の主張や証拠を公判前整理手続で出し合うという点は,公判前整理手続の大きな特徴です。
 そもそも公判前整理手続は,一般市民が裁判員として参加する裁判は集中的に行わなければならないことから,予め判断すべき事項(争点)とそのためにどのような証拠を調べるかを決めておく必要があることから,設けられた制度です。
 そのため,
  ① 検察官が証明予定事実(立証使用とする事実)
  ② 検察官の証拠調べ請求
  ③ 弁護人の予定主張(法廷で予定している主張)
  ④ 弁護人の証拠調べ請求
が行われることになります。
 そして,重要なことが,証拠調べ請求は,公判前整理手続終了後はやむを得ない事由がない限り出来ない,という点です。
 折角整理して公判をはじめたのに,さらに証拠請求ができるとすれば,裁判をやり直さなければならない事態にもなりかねないからです。

 公判前整理手続に付すべき大きな理由の1つが,この証拠制限なのです。
 検察官が公判を見てから,補充捜査をしたり,新たな証拠を請求することを封じることができるのです(弁護側も同様です)。

 証拠開示の重要性

 さらに公判前整理手続に付すべきもう一つの理由が,証拠開示です。
 犯罪が疑われた場合,警察,検察は,膨大な捜査員と税金を投入して,証拠を集めます。必要があれば強制的に押収することもできます。
 これに対し弁護側は,強制力もマンパワーもなく,国選弁護などでは経済的資力もありません。
もちろん事件の中には,弁護人が苦労の既に証拠を探し出したり,作り出して無罪に繋がるという場合もありますが,多くは,捜査機関が収集した証拠の中に活路を見いだすのです。
 しかしながら,検察官は、自らの主張を裏付ける証拠のみを裁判所に請求しますから,弁護側に必要な証拠は当然には手に入れることができず,証拠開示を求めていかなければなりません。
 しかも,そもそもどのような証拠を集めたのかすら弁護側には分かりません。
 そこで公判前整理手続に付されると,捜査機関が収集した証拠の一覧表というものを交付させることができ,証拠開示の手がかりになるのです。
また,公判前整理手続に付された事件では,類型証拠開示請求や主張関連証拠開示請求という制度が設けられており,検察官との間で証拠開示を巡って対立したときには,裁判所に証拠開示命令を出すよう請求することもできます。

 このようなメリットから,否認事件においては公判前整理手続に付すことを求めることが充実した弁護活動のために必要なのです。

逮捕・勾留された 早期の釈放を目指す弁護活動

2021-04-19

犯罪を犯したことを疑われて逮捕された後,さらに勾留という身体拘束を受けて取調べなどの捜査を受ける可能性があります。 (さらに…)

強盗殺人と強盗致死

2021-04-12

 強盗殺人と強盗致死の法定刑

  強盗殺人とは,強盗をした犯人が人を殺害した場合です(必ずしも殺害相手は強盗の被害者に限られません。目撃した人を殺害した場合などを含みます)。
  殺害に故意がある(殺意がある)場合が強盗殺人であり,殺意がないけれども暴行の結果人を死なせた場合が強盗致死になります。
  刑法第240条は「強盗が、人を負傷させたときは無期又は6年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。」と規定しています(前段は怪我をさせた場合で強盗傷人又は強盗致傷罪です)。
  つまり,法定刑では,強盗殺人も強盗致死もいずれも「死刑又は無期懲役」のみが定められています。
  ちなみに普通の殺人罪は「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処する。」(刑法199条)であり,法定刑には5年以上の有期懲役が定められています。
 
 日本の刑法では,故意に犯罪を犯したのか,故意ではなく結果的に犯罪を犯したのかで成立する犯罪も法定刑も異なるのが通常です。殺人罪と傷害致死罪は結果的に人を死なせたという点では一緒でも,法定刑は全く異なります(傷害致死は3年以上の有期懲役で,無期懲役や死刑はありません)。
 これは,故意に犯罪を犯した人の方が責任が重いと考えられているからです。

 強盗殺人と強盗致死の特殊性

 しかしながら,強盗殺人と強盗致死は死刑又は無期懲役と同じ法定刑が定められています。
 殺人罪よりも格段に重い刑が定められているのは,財産目当てで人を襲おうとする者は人の生命を軽視し命を奪う危険性が高いことから,より重い刑で抑止する必要があると考えられているからです。
ただ実際の量刑を見てみると,故意に殺害した強盗殺人と強盗致死では差があります。
 被害者1名の事案で見てみると,強盗殺人ではほとんどが無期懲役となるのに対し,強盗致死では無期懲役が減軽され有期懲役となることも多く,強盗致死で無期懲役となるのは悪質な事案です。

 強盗殺人罪で刑事裁判で争われること

 強盗殺人罪は刑法に規定される罪の中でも最も重い犯罪の1つであり,被害者が1名でも無期懲役,2名以上になると死刑判決になることが多いです。
 まず,強盗の意図がいつ生じたかが争いになります。
 最初から殺して奪おうと計画し,殺害→物を取るという場合でも,物を取る→殺害という順番でも,いずれでも強盗殺人罪が成立します。
 他方で,最初は物を取るつもりはなく,単純に恨みなどから殺害し,殺害したあとに金品奪取の意図が生じた場合,強盗殺人ではなく,窃盗,殺人罪が成立することになり,量刑が大きく異なることになります。
 強盗殺人罪では,目撃者等がいることが少なく,いつ財物奪取の意図が生じたのかは,計画性や被告人の犯行前後の行動から推測するしかなく,難しい争点になることが多いです。
 また,法定刑は一緒でも故意のあるなしで,強盗殺人か強盗致死かになり,量刑も変わってくることから,殺意の有無も争われることが少なくありません。
 強盗殺人になると無期懲役の可能性が高く,現在の無期懲役の実情は,事実上終身刑に近い運用となっており,強盗致死罪となり有期懲役となるかどうかが,熾烈に争われることになります。

 強盗殺人,強盗致死と共犯事件

 また,強盗殺人や強盗致死事件は,複数の者が共犯関係となって実行されることが多い類型です。
 一般的に共犯事件は,首謀者や主犯に重い刑が,従属的な関与の者により軽い刑が科されることになるため,逮捕起訴された者同士で,主従性が問題になることも多くあります。
 主従性は,計画段階での関与態様,実際に果たした役割,得た報酬,人的関係等から判断されることになります。もちろん共犯同士に主従はなく,みんなが重い刑となることもあります。

 強盗殺人,強盗致死の裁判員裁判

 強盗殺人や強盗致死は起訴されると裁判員裁判となります。
 重大事件であることから国選であれば2名,場合によって3名以上が選任されることがあります。
 そして重大事件であり,犯罪成立上の争点や,共犯者の主従,量刑上の争点など多岐に渡る争いがあるのが通常で,証拠も多くなります。
 裁判員裁判は必要的に公判前整理手続に付されますが,公判前整理手続に1年以上かかることも珍しくありません。
 公判も,目撃者,共犯者,法医学者など複数の証人尋問が行われることが多いでしょう。

 
  

公訴事実に争いがない刑事裁判 第一審手続の流れ

2021-03-15

逮捕され起訴されて初めて刑事裁判を受けることになった。
初めてのことでご不安な方やそのご家族の方もいらっしゃると思います。
裁判員裁判対象事件ではなく,起訴状の犯罪事実に争いがない場合,刑事裁判の審理は1回で終わり次回に判決言い渡しとなるのが多いといえます。
こうした刑事裁判の手続の流れや準備についてご説明します。 (さらに…)

前科がある場合 執行猶予判決が受けられるか

2021-02-15

前科がある。また犯罪を犯して刑事裁判を受けることになってしまった。
この様に前科があって再犯を犯してしまった場合,一般的により重い刑になることが予想されるところだと思います。
このように前科があるとき,実刑判決とならずに懲役刑に執行猶予が付されるのはどういった場合でしょうか。 (さらに…)

第一回公判期日前の証人尋問の注意点

2021-01-18

第一回公判期日前の証人尋問とは

公判期日に行われる証拠調べとして、証人尋問が行われます。被告人も出頭し、公開の法廷で証人に対し検察官や弁護人が尋問します。

ところが刑事訴訟法は、第一回公判期日より前に、つまり公判手続が始まる前に、証人尋問を行うことを認めています。刑事訴訟法226条、227条が定める、第一回公判期日前の証人尋問がこれです。

226条は、犯罪の捜査に欠くことができない知識を有すると明らかに認められる者が、捜査機関による取調べを拒んだ場合に証人尋問ができるとします。227条は、取調べでは任意に供述した(つまり取調べに応じて話をしていた)者が、公判期日では前にした供述と異なる供述をするおそれがあり、かつ、その者の供述が犯罪の証明に欠くことができない場合に、証人尋問ができるとします。

実務上特に問題になることが多いのが、227条のケースです。例えば被害者や重要な証言をすることが期待されている共犯者が、公判廷での証言を拒んだり、出廷しないことを予め明言している場合なども該当すると判断されることがあります。

この第一回公判期日前の証人尋問は、非公開の法廷で行われます。そして、被告人と弁護人の立会権がありません。刑事訴訟法は、「捜査に支障を生ずる虞(おそれ)がないと認めるとき」は、被告人、被疑者、弁護人を「立ち会わせることができる」としています。つまり裁判所の裁量次第で、立会が認められないこともあります。弁護人のみの立会が認められ、被告人本人が立ち会えないということも珍しくありません。立会を許された弁護人は、通常の公判廷での尋問と同様に、証人に対して反対尋問を行うことができます。ただし、証人尋問調書を謄写できない等の違いがあります。

弁護活動の留意点

被告人不在の場で、しかも十分な証拠の開示を受けられない段階で証人尋問を行うことは、証人の一方的な証言を許す機会にもなりかねず、被告人にとって極めて大きな不利益を招きます。事案にもよりますが、弁護人としては上記の証人尋問を満たす要件が認められるかについて厳しく精査し、反対意見を積極的にのべるべきです。もっとも、検察官の意見書や請求書を謄写することもできず、的確な反論が難しいケースも少なくありません。

第一回公判期日前に証人尋問が実施されることとなった場合は、同尋問での証言が、公判調書という形式で、その後の公判で証拠採用されることを見越して、尋問をする必要があります。尋問調書を読むだけで、裁判官、裁判員が、弁護人の尋問の意味や証人の信用性をなるべく的確に判断できるよう、質問の内容や訊き方に配慮する必要があります。

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