刑事弁護コラム
警察・検察の取り調べを予想する
逮捕されるとすぐに警察,検察の取り調べを受けることになります。
取り調べで話した内容は供述調書を作成されたり録音録画されたりし,起訴・不起訴や裁判での有罪・無罪と刑の重さを決める証拠になります。
取り調べに適切に対応するためには,警察,検察がどのような取り調べを行うのか予想することが重要です。
警察,検察がどのような取り調べを行うか
警察,検察は,犯罪事実や犯人を証明することを考えて取り調べを行うものといえます。
警察,検察がどのような取り調べを行うか的確に予想するためには,このような犯罪事実や犯人であること証明するためにどういった事実が問題となるかを具体的に検討できることが重要です。
そのためには,法律や裁判例などの前提知識が必要であり,その上で事案や証拠内容を十分に把握することが必要です。
法律や刑事裁判になじみのないご本人が自分で判断するのは困難で,弁護士の判断に従うことが重要です。
例えば,騙されて詐欺行為に荷担することになり逮捕されたという事案であったとします。
ご本人としては自分も騙されたので無罪であると考えるのは当然です。
しかし,騙されたとしても犯罪が私立する可能性があります。
刑事裁判において犯罪が成立するためのご本人の認識としては,犯罪である可能性を認識しながらもあえて行ったという程度のもので,犯罪が成立しうるものです。
警察,検察の取り調べとして,ご本人が自分も騙されたと説明したとしても,それで捜査は終わりとなり釈放され不起訴になるということは全く期待できません。
本件以前の出来事や荷担することになった経緯,関係者とのやりとりなどについても取り調べられることが予想されます。
こうした事柄について,記憶が不確かであったり不正確であったりするにもかかわらず,警察,検察の取り調べで供述した内容が証拠となることで,有罪となってしまう危険性があります。
供述させようとして予想される取り調べ
こうした警察,検察の取り調べに対しては,黙秘権を行使することが考えられます。
しかし,ご本人が黙秘権を行使すると言ったとしても,警察,検察が取り調べを終了するということは全く期待できません。
ご本人が黙秘権を行使すると言っても取り調べは続きます。
むしろ,ご本人の意思に反して供述させようとする取り調べが行われることが予想されます。
取り調べに応じないことを強く非難するような取り調べを行うことや,逆に供述しないことがご本人の不利になるとするような不安にさせる取り調べを行うことなどが予想されます。
あるいは,取調べにおいて事件とは関係のない雑談をすることで,事件についての話をすることの取り調べについても話をさせようとすることなども予想されます。
こうした取り調べに対してどのように対応すべきかは,ご本人自身が判断することは困難です。
取り調べ自体に対してどのように応じるかについても,弁護士の助言を受けてその判断に従うことが重要です。
接見等禁止を解除する
弁護士以外と面会できない
身体拘束をされている人にとって、家族と面会できる時間というのは、精神的にも大事な時間になります。時には、手紙のやりとりも、心の支えになると思います。
また、衣類や書籍を始めとして、家族から身体拘束されている人に対して、差入れすることも、重要です。
ですが、事件によっては、裁判所から「接見等禁止命令」といって、弁護人以外との面会や、物・手紙のやりとりが禁止される場合があります。
公判で自首はどう扱われるか
自首とは何か
刑法は自首について「罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる」とされています(刑法第42条1項)。
減軽がされた場合、有期の懲役刑ですと、法律上言い渡される刑の上限(長期)及び下限が半分になります。例えば強制わいせつは「6月以上10年以下の懲役に処する」とされていますが、路上で強制わいせつをした後、我に返って反省して近くの交番に駆け込み、自首が成立したとして、減軽が認められると、「3月以上5年以下の懲役」が刑の選択の範囲となります。また、宣告できる刑の幅が変わるだけでなく、実際に宣告される刑が軽くなる傾向にあります。つまり自首したことが有利な情状とされ、刑を軽くする事情として扱われます。
どのような点が争われるか
自首が成立するためには様々な要件があります。刑法の教科書でもそれなりに頁をさいて解説されるような論点ですし、相当数の判例が蓄積されていますが、まず問題になりやすいのは「発覚する前」に自首したといえるかどうかです。犯罪事実とその犯人が捜査機関に判明している前に、犯人が、自分がした犯罪事実の存在や内容を捜査機関に告げる必要があります。
ですから、例えば先程の例で、事件後1時間たって犯人が最寄りの警察署に出頭し、さきほど路上で女性を襲ってしまった、と申告したとします。事件の3分後に被害女性が110番通報していたとすると、この申告の時点で犯罪事実の存在や内容自体は捜査機関に発覚していますが、犯人が誰かがまだ分かっていなかったとしたら、自首が成立し得ます。
他方で、出頭するかどうかを迷っていた結果、2日後になったとします。この時点で、前科の記録や目撃証言をもとに、捜査機関の方では犯人が誰か分かっていた場合、その後に出頭しても自首は成立しません。ですから、事件後時間が経たない間に出頭するのはとても重要です。
裁判では、出頭の時点でどこまで警察が犯罪事実や事件を把握していたか、ということや出頭との先後関係がシビアに争われることもあります。必要であれば、捜査を担当していた警察官を尋問し、出頭の時点で判明していた事実の内容を明らかにしなければならないこともあります。
また、自発的に行ったかどうかも、争点となることがあります。自首と似て非なるのは、警察官から追求を受けて、罪を認めたようなケースです。ですから先程の例でいうと、事件を起こして逃走を開始した3分後に、犯人がたまたま路上をパトロールしていた警察官から職務質問を受けたとして、その挙動を怪しまれて追求され、観念して「先程路上で女性を襲ってしまいました。」等と認めた場合には、自首は成立しないと言えます。
このように自首が成立するかについては様々な論点があり、自首に関する主張を認めさせるには、深い法律知識や尋問能力等が要求されます。弁護人も自首が成立する事案なのかを仔細に見極める必要があります。
自首での減軽を求める場合の注意点
さらに自首を主張する上で重要なのが、法律が「その刑を減刑することができる」としている点です(刑法第42条1項)。つまり自首が成立するとしても、刑を減軽しない、という判断がなされることもあるのです。さらに情状においても、自首をそこまで大きく評価しない、との判断がなされ、結果的に刑がそこまで軽くならない、ということもあります。
自首で減軽がなされる根拠としては①自首がされれば真相が解明されることから、減軽という恩恵を与えてこれを促進するという政策的な根拠②自ら犯罪事実を告げて、自身を訴追するよう求める点で、向けられている非難が減少する、との2点が挙げられることが多いと言えます。減軽が認められない事案は、この趣旨に反するような行為をしているケースが多い傾向にあります。例えば自首はしているものの、直後に事件に関係のあるラインメッセージを消去して証拠隠滅を図った、というような場合などです。自首をしなくても速やかに犯罪事実や犯人は捜査機関に判明したはずであるから、自首がなされた意味は大きくない、というような主張が検察官からなされることもあります。
弁護人は自首が成立する場合でも安心せず、なぜそれを根拠に刑を軽くしてよいか、丁寧に主張立証する必要があります。特に裁判員裁判では、上記のような自首制度の趣旨を裁判員に分かりやすく説明した上で、政策的な観点からも責任減少の観点からも、軽い刑を言い渡さなければ法の趣旨に反する、との主張を的確に行わなければなりません。
なお、現在の裁判実務では、刑の大枠は犯罪行為自体に関する事情(犯情)に基づいて定められ、自首などのそれ以外の事情は、あくまで調整要素として扱われます。しかし執行猶予が認められるかがシビアに争われる事案などでは、自首の成否やそれに基づく減軽の可否が決め手となることもあります。弁護人はあきらめずに自首に関する主張を尽くし、依頼者のために少しでも軽い結論を求めていかなければなりません。
持続化給付金詐欺の捜査弁護
新型コロナ禍において、持続化給付金詐欺が、急速に増えています。ニュースで目に触れる機会も多くなりました。持続化給付金詐欺に関わってしまった人も、数多くいることが予想されます。
大麻事案の特徴
大麻事案の特徴
大麻取締法の改正が議論されています。現在日本で大麻を所持することは刑罰の対象となりますが、大麻を使用しただけでは罰則はありません。他の代表的な薬物、例えば覚醒剤やコカイン、MDMAなどが、所持についても使用についても罰則の対象となるのとは異なります。
違いはそれだけではありません。大麻の所持事案に関しては、他の薬物所持の事案と比べ、運用上顕著な特徴があり、弁護人もその違いを理解した上で適切な方針選択をする必要があります。
微量であれば不起訴になることがある
薬物所持事案で争いのない場合、日本ではほとんどの事案で公判請求という処分が検察官からなされます。すなわち、検察官が起訴し、正式に公判が開かれ、有罪判決を受けるというのがもっとも多いパターンです。
大麻を所持していたとしても、持っていた量が非常に少なければ、不起訴になることがあります。明確な基準があるわけではありませんが、大麻の1回分の使用量とされている約0.5g(但し、乾燥大麻の場合。大麻樹脂の場合は約0.1g程度。)を下回る所持量の場合には、所持の事実に争いがなく、被疑者本人が認めていたとしても、不起訴処分(起訴猶予)になることがしばしばあります。
起訴猶予処分とは、犯罪事実の認定に問題がないことを前提に、起訴することによる弊害等を考慮して敢えて起訴しない処分です。起訴するか否かの判断においては、検察官に極めて大きな裁量が認められており、上記のような処分傾向の背景にどのような考え方があるのか、正確に知ることは困難ですが、1回使用分にもみたない微量の所持は、違法性が決して高くないことを考慮しているものと推測されます。
もっとも、このような微量な所持事案が起訴猶予となるのは、ほとんどが初犯の場合です。薬物事犯の前科がある場合などでは、微量の大麻所持であっても、起訴されることはよくあります。
他の薬物ではどうでしょうか。覚醒剤の所持の場合ですと、初犯で、かつ所持量が1回分にもみたないような微量であったとしても、所持の事実に争いがないのであれば起訴されることがほとんどです。大麻とは異なります。所持している薬物によって、正反対の結果となりうるのです。
他によくみるケースは、覚醒剤に加えて、少量の大麻を所持しているようなケースでは、覚醒剤の所持のみが起訴され、大麻の所持については起訴されないというものです。覚醒剤の所持について公判が開かれる以上、大麻の所持についてはわざわざ起訴する価値に乏しい、という判断が働いているものと思われます。
他の薬物事案と比べて勾留がされにくい
日本では捜査段階で安易に勾留決定がなされます。勾留とは、最大20日間に及ぶ、起訴前の身体拘束です。軽微な事案であっても、必要性の乏しい勾留が日常的になされているのが現状です。特に薬物事犯では、売人等の背後に組織的な背景が存在すると考えられること等から、ほとんどの事案で勾留がなされる一方、在宅のまま捜査がなされる場合は例外にとどまってきました。
しかし、大麻所持の事案については、以前と比べて勾留請求が却下される事案が増えてきています。仮に勾留がついたとしても、勾留延長請求が却下され、勾留から10日目で釈放され、在宅捜査に切り替えられるという事案も相当増加しているように思えます。奇妙なことに、これも大麻所持事案特有の傾向で、例えば覚醒剤やコカインの所持の事案では、(例外はあるとしても)依然として漫然と20日間の勾留がなされる事案が圧倒的に多数です。
そもそも単純な薬物所持事案であれば、証拠関係も極めてシンプルです。現行犯逮捕事案であれば、所持品検査等により所持の態様は明らかとなっていますし、犯罪事実の存在も明白です。自分一人で使うために持っていた、というようなケースでは、関係者との口裏合わせ等の罪証隠滅がなされる可能性も乏しく、勾留の要件も必要性も満たされない場合が多いと言えます。つまり大麻の単純所持の事案で勾留がなされないのは、法律上の要件からも至極当然だといえるケースが多いと思われますし、他の薬物、例えば覚醒剤の所持事案でも同様のはずです。勾留の判断においては、大麻のみを特別扱いする理由は見出し難いのです。
今後、勾留に関する運用は変わり得ます。他の薬物の所持事案についても、安易な勾留は抑制されるようになるかもしれません。いずれにせよ弁護人は、最先端の運用や相場観を踏まえつつも、諦めずに粘り強く不当な勾留を回避するための働きかけを行っていくべきです。
量刑弁護 執行猶予付き判決の材料を集める
やってしまった行為に対する刑の重さには,再犯可能性が影響します。これ以降は同じような犯罪をしないという説得的な根拠を示すことが,刑を争う事件では1つのポイントになります。特に,懲役刑になるか罰金刑になるか,執行猶予が付くかどうかのような事件では,再犯可能性も無視できない要素です。
DV事件で逮捕されたら
コロナ禍の下、DV事件は増加している
新型コロナウィルス感染症の拡大に伴う外出自粛の影響か、家庭内暴力(ドメスティック・バイオレンス。いわゆるDV。)の相談件数が過去最多となっている、とのニュースに触れました。普段は共に自宅で過ごす時間の少ない夫婦や家族が、長時間顔を突き合わせることにより、暴力を振るうといったケースが増加し、顕在化しているようです。
DVはれっきとした刑事事件です。配偶者や親、子に暴力をふるった場合、それだけで暴行罪(刑法208条)に該当します。相手が怪我をした場合、それが打撲や挫創などの比較的軽微な怪我であっても、傷害罪(刑法204条)が成立します。事実に間違いがない場合は、刑罰を受けることになります。
DV事案への捜査機関の取り組みと、勾留のリスク
捜査機関は、伝統的には、「法は家庭に入らず」との考えの下、家庭内暴力の事件で被害者が被害を申告したとしても、捜査に着手することに消極的でした。しかし、近年DVの増加が社会問題化するようになり、現場の弁護士から見ても、警察の対応がより積極的になってきた印象があります。また、継続的に暴力行為が行われ、被害者が何度も警察に被害相談を繰り返していたような場合は、警察も積極的に捜査をする傾向があります。
他方で、事案によっては、夫婦喧嘩の延長に過ぎないようなものもありますし、そもそも一方当事者が被害を過大に申告するか、本来ない暴力被害を訴えるという事案もないわけではありません。このような場合でも、警察が捜査に着手した場合、一方当事者である被害者の言い分を基本的に前提として捜査をすすめますので、冤罪のリスクがあります。
さらに、DV事件では逮捕された後、勾留が相当期間継続する傾向があります。勾留することができる条件の一つに、罪証隠滅をすると疑うに足りる相当な理由があること、というものがありますが、想定されている罪証隠滅行為の典型例が、被疑者に被害者が接触して、被害を取り下げるように圧力をかけたり、供述をかえさせたりする、という行動です。夫と妻、あるいは親と子といった、一定の力関係があり、さらに居住先を同じくしていて容易に接触できる間柄の場合、簡単に上記のような罪証隠滅行為がなされてしまうはずだ、と裁判官は考えるのです。
家庭内でいさかいはあったが、暴力まではふるっていない、それなのに見に覚えのないDV行為で逮捕されてしまったーこのような場合、①いかに勾留をつけさせずに、早期に釈放を勝ち取るか②いかに刑事罰を受けることを避けるか、という点がポイントになります。
いかに早期釈放を勝ち取るか
裁判官に勾留をつけさせないためには、まず被害者と被疑者が容易に接触できない環境を整備し、互いに直接接触しない状況を維持できることを、裁判官にアピールする必要があります。
典型的なケースでは、被疑者が自らの実家に一時的に転居し、刑事事件が終結するまでの間はそこで生活をする、という提案をします。勿論、引っ越し作業等も被疑者家族の協力を得て行い、被疑者が直接被害者と接触することがないように細心の注意を払います。もっとも、単に実家に戻るというだけでは、容易に会ったり電話をしたりすることができる、との理由で勾留がつけられることもありますので、連絡手段についても手当は必要ですし、裁判官によっても判断は大いに分かれるところだと思います。
もう一つのアプローチは、示談交渉になるべく早期に着手するということです。全くの事実無根の場合は、示談等をするのも変ですが、喧嘩や揉み合いにはなったが暴力まではふるっていない、というようなケースの場合、揉み合いになったこと等については謝罪をし、示談をするということもあります。また、DV事件の一部では、被害者も興奮して警察に通報したものの、そこまで大事にするつもりはなく警察に調停してもらう程度のつもりだったのに、予想に反して警察が逮捕してしまい、大事になってしまった、というような経過をたどる事件もあります。このような事件では、被害者と弁護人が早期に連絡をとり、手続について説明し、相互の冷却期間をおくこと等を条件に早期に示談し、また被害届を取り下げてもらう、というアプローチが考えられます。このような交渉が相当程度煮詰まっており、早期の示談成立が見込めるのであれば、勾留がつかないことも十分あります。もっとも、被害者の処罰感情が極めて強い場合や、当方に全く暴力や暴行をした事実はなく、被害者の主張する事実との間に大きな開きがある場合などは、このアプローチは困難です。
冤罪を避けるための公判活動
DV行為があったと検察官が判断し、起訴されてしまった場合、どのように対処すべきでしょうか。実際には暴行をふるっていない、という場合、まさに冤罪の危険にさらされます。公判では、被害者の証言の信用性が一番の争点になります。被害者の証人尋問で、いかに被害者の言い分がおかしいか、弾劾することが必要不可欠となりますし、他の客観的な証拠との矛盾をつくなど、事件全体の証拠を無理なく説明する戦略を立てた上での弁護活動が必要不可欠となります。事件によっては、被害者に生じたとされる怪我の原因を明らかにするため、法医学者などの専門家による鑑定や尋問が必要となる場合もあるかもしれません。
公判で弁護活動が成功し、無罪判決を獲得できるか否かは、弁護人のスキルに大きく左右されます。弊所は徹底的に争う事件を数多く取り扱い、尋問技術や公判での説得技術について研鑽を積んできた弁護士のみが所属しております。
公判前整理手続の実態と活用
「公判前整理手続」の実態と活用についてご説明します。
公訴事実に争いがない刑事裁判 第一審手続の流れ
逮捕され起訴されて初めて刑事裁判を受けることになった。
初めてのことでご不安な方やそのご家族の方もいらっしゃると思います。
裁判員裁判対象事件ではなく,起訴状の犯罪事実に争いがない場合,刑事裁判の審理は1回で終わり次回に判決言い渡しとなるのが多いといえます。
こうした刑事裁判の手続の流れや準備についてご説明します。 (さらに…)
裁判員裁判は私選弁護人を依頼すべきか
裁判員裁判対象事件で逮捕,起訴されてしまった場合に国選弁護人にするかそれとも私選弁護人を選任すべきでしょうか。
裁判員裁判は一定の重大な罪が対象とされており,有罪の場合に科される刑も重くなります。
弁護人の活動が結論に与える影響も大きいため,慎重な検討が必要です。
裁判員裁判の国選弁護人
裁判員裁判は,起訴されると必要的に公判前整理手続に付され,集中して審理が行われるため弁護人の負担が大きくなります。
そこで,現在は原則として2名の国選弁護人が選任されています(一部の事件では捜査段階は1名の場合がありますが,起訴後は2名が原則です)。
国選弁護人の選ばれ方は,各都道府県にある弁護士会に所属する弁護士による国選名簿から配点されることになり,特定の弁護士を国選に選任することを求めることはできません。
そのため,どのような弁護人が国選弁護人として選任されるかは運となります。
地域にもよるのですが,裁判員裁判は重大事件であることから各弁護士会が名簿に登載される弁護士向けの研修を義務づけたり,刑事事件に熱心な弁護士も多く登録しています。
国選弁護だから手を抜くということはなく,弁護士から見ても一線級の弁護士が国選として選任されることもあるでしょう。
また,国選か私選かを検討する際には費用の面も欠かせません。
国選の場合は被告人自身が負担させられることは資力が相応にあって,執行猶予判決となる場合など例外的な場合で,多くは国が負担します。
2名分の弁護士費用だけではありません。
刑事裁判では,捜査機関が収集した証拠の開示を受けて弁護活動をするのですが,その証拠は検察庁に対して謄写(コピー)を求める必要があります。その謄写費用は1枚30円以上(地域によります)かかります。この謄写費用も国が支払います。
裁判員裁判の謄写費用は,時に数十万から100万以上になることもあり,私選弁護人を選任するときには,この謄写費用も負担しなければなりません。
裁判員裁判での私選弁護人
私選弁護人を頼むメリットはどこにあるでしょうか。
それはやはり,裁判員裁判において弁護人の力量が大きく左右するという点に挙げられます。
裁判員裁判は,公判前整理手続に付されます。そこでは検察官に証拠の開示を求めたり,あるいはこちらの証拠を裁判所に採用させる必要があり,刑事事件に熟達しているか否かで大きく変わってきます。
また,法廷での弁護活動,証人尋問や,冒頭陳述,弁論などといった法廷技術は,裁判官,裁判員を説得する上でとても重要な技術ですが,このような法廷技術は,訓練なくして身につくものではありません。
裁判員裁判の国選弁護の名簿には刑事弁護を得意とする弁護士もいれば,経験に乏しかったり,あるいはそこまで熱心ではない,裁判員裁判の研修を積極的に受講していないというような弁護士がいるのも事実です。
そして,国選弁護人は,自分で選ぶことができず,かつ,信頼が十分に出来ない場合でも,交代を求めることができません。
特に否認事件では私選弁護のメリットはより大きなものとなるでしょう。
他方で,私選弁護人は費用がかかります。裁判員裁判は公判前整理手続期間を含めて,半年から2年以上かかることも珍しくありません。
公判は集中的に行われるため,弁護士もその事件に集中するため,どうしても弁護士費用は高額となります。
事件によりますが2名選任するとして,謄写費用含め数百万かかると見ておく必要があります。
国選か私選か
国選でも熱心かつ熟達した刑事弁護人の場合もありますから,選任された国選弁護人が信頼できるなら任せるということでもよいかもしれません。
私選弁護人はいつでも選任できます(私選が選任された時点で原則として国選は解任になります)。
ただし,私選弁護人としての活動は早ければ早いほうがいいです。
迷われるようでしたら,とりあえず刑事事件を中心に扱っている弁護士に相談してみることとお勧めします。
ただし,一審は国選でやってみて,うまくいかなかったら控訴審は私選を選任しようというのはお勧めしません。
日本は三審制をとり,地裁,高裁,最高裁,とありますが,市民も参加して地裁で行われた裁判員裁判の結果を,高裁の裁判官が控訴審で破棄して判決を変更することはよほどの事情がない限りありません。
まずは第1審に全ての力を注ぐ必要があります。